【Factに迫る!】『日本版ジョブ型』について
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参考:https://www.jga.gr.jp/policy.html
日本において、終身雇用制度の限界を迎えるなか、多くの企業が人事制度を「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に移行し、世の中から「選ばれる会社」を目指していると予想されます。
今回、『日本版ジョブ型』について紹介いたします。
①『メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用』
組織・人事コンサルティングの加藤守和氏によると、昭和の高度経済成長を背景に、多くの日本企業は新卒一括採用による「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる雇用スタイルを取ってきました(図1左側)。職務の合意がない日本独特の雇用形態です。
(図1)著者作図
引用:
日本版ジョブ型人事ハンドブック 加藤守和[著]日本能率協会マネジメントセンター
「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略 加藤守和[著] ダイヤモンド社
配属までどのような職務につくか分からないのが、今までの日本企業の雇用でした。配属後も会社が任命権を持ち、配属・異動を柔軟に行えることが最大の特徴と言えます。
一方、海外の多くの企業は「ジョブ型雇用」です(図1右側)。
海外の雇用は欠員補充が原則になります。組織に必要な職務(ジョブ)を担う人材が不足していれば、必要なだけ採用します。そして、求められる職務(ジョブ)に合った能力・経験を持つ人材を採用します。
会社も応募者も職務に相互合意しているので、会社が一方的に配置・異動をさせることはできません。
②『日本版ジョブ型の全体像』
加藤氏は、多くの日本企業が選択するであろう 今後の「日本版ジョブ型」の構造を予見されています。(図2)
(図2)著者作図一部改変
引用:
日本版ジョブ型人事ハンドブック 加藤守和[著]日本能率協会マネジメントセンター
「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略 加藤守和[著] ダイヤモンド社
ポイントとして
〇大半の職種では、職務を限定しない「メンバーシップ型」雇用を維持する。
〇入社後、一定階層までは複数の職場を経験する「ゼネラリスト育成」を行う。異動の相性の良い「人の能力」に応じた職能型制度が適用される。
〇一定階層以上は、職務を明確にし、職務価値に合った処遇とする「ジョブ型」人材マネジメントを行う。一定階層以上の異動は少なくなり、「スペシャリスト育成」が主流になる。
〇会社は任命権を持ち続け、社員の雇用は原則的に守られる。
〇一部の高度専門人材は、「ジョブ型」雇用と「ジョブ型」人材マネジメントの適用対象となる。
これらは、今の雇用の枠組みを壊さない範囲で、「貢献度に応じた適正処遇」「職務内容の明確化」というエッセンスを盛り込んだ日本独自の「日本版ジョブ型」を作り上げています。
実は、この構造は目新しいことではなく、すでに成果主義やグローバル化とともに先行して「ジョブ型」を取り入れている企業は、ほとんどこの構造にたどり着いています。
加藤氏は、今後の日本企業も多くはこの「日本版ジョブ型」に帰着するとしています。
筆者は今後多くの企業でジョブ型が拡大していくと考えます。ジョブ型により、企業が戦略的に人材に投資することによって企業の競争力を高めようとするからです。
一方、企業にとっては、経営的な視点からマネジメントを担うゼネラリストも必要不可欠です。専門的なマネージャー経験者から、スペシャリスト・エキスパートへ移行するキャリアは、企業にとって大切な人的資本になると予想されます。
今後、さらに労働市場の流動性が高まれば、マネジメントスキルとスペシャリストスキルを持つ、「ハイブリッドなキャリア人材」の市場価値が高まる可能性があります。
③『キャリアデベロップメント』
「日本版ジョブ型」時代、ビジネスパーソンはどのようにキャリアを形成していくのか、キャリア形成を会社任せにせず、自分で決めていく「キャリア自律」が問われています。
前述の加藤氏はキャリアについてジョブ型時代のキャリアデザインの方向性として仕事のポートフォリオを考えてみることを推奨しています。(図3)
(図3)著者作図
引用:
「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略 加藤守和[著] ダイヤモンド社
仕事をすべて「好き」で満たすことはなかなか難しいことです。
企業に在籍すると、組織や上司からさまざまな要請があります。
自分の仕事全体を振り返ったときに、WILL(意思を持って取り組めている仕事)、CAN(得意領域が活きている仕事)、MUST(やらねばならない仕事)がどのような比率になっているかを考えることが大切です。
MUSTな仕事に埋め尽くされているようですと、自分のキャリアを他人任せにしまっている可能性があります。自身が受け入れ、納得できるポートフォリオを目指して、組織や上司と調整することが大事であると加藤氏は述べています。
ある程度、MUSTな業務を受け入れ、WILLやCANの業務を増やしていくことは、自分らしい「キャリア資本」を増やしていくことになります。
既寄稿『VUCA時代経営』(2022.5.10)の「未来予想図」で示したように、「強み」のない人はいません。だれもが持っている「強み」を活かし、自分らしいキャリア資本を積み上げ、「キャリア自律」を確立することが大切です。
VUCA時代でもある「ジョブ型時代」は、我々ビジネスパーソンを取り巻く環境が刻々と変化しています。
これからのビジネスパーソンは、常にスキルをアップデートしていく「キャリア自律」が必要になります。
このキャリア自律は既寄稿コラム『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』(2023.2.1)の「プロティアン・キャリア」や『ウェルビーイング・マーケティング』(2023.3.1)の「マーケティング人材」にも強く関連します。
また、「日本版ジョブ型」は、既寄稿『人的資本経営』(2022.7.1)、『人的資本経営パート2』(2022.8.1)『人的資本経営パート3』(2022.9.1)にも連関します。
ジョブ型は「人材版伊藤レポート2.0」で触れられているように、企業は戦略的に人材投資することで競争力を高めることができます。
労働者の視点からはウェルビーイングの実現が高まります。
人的資本経営を推進することで、働き手と組織の関係を「選び、選ばれる関係」へと変化させます。
そして、これからの企業は、「キャリア自律したビジネスパーソン」に「選ばれる会社」になれるかが、企業経営にとって喫緊の重要な課題と考えられます。
④最後に
「日本版ジョブ型」は医薬品企業にとっても、企業価値向上につなげるための大変重要な概念です。
医薬品・医療機器企業はこれから、「日本版ジョブ型」を鑑み、自社を「トランスフォーメーション」し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。
文責:ニプロ株式会社 山口博人(日本FP協会会員AFP)
参考情報
◯『Society5.0』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230403.html
◯『ウェルビーイング・マーケティング』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230301.html
◯『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230201.html
◯『インパクト加重会計』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230105.html
◯『KPI経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221201.html
◯『価値創造経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221101.html
◯『ムーンショット経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221003.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html