安定供給の局面が変わる
Monthly ミクス編集部
望月 英梨
「安定供給の局面が変わってきている。製造原価の低減に取り組むが、薬価制度・政策は非常に重要なのでそこもしっかりと主張をし、2020年以降も日本品質の後発品を安定供給していきたい。」日本ジェネリック製薬協会は5月29日付で、澤井光郎氏(沢井製薬代表取締役社長)を新会長に選任した。記者会見の第一声は、会長が自ら語った将来への危機感だ。
政府が後発品80%目標を定める中でジェネリックビジネスは成長を続けてきた。吉田逸郎前会長(東和薬品代表取締役社長)が就任(2013年6月就任)する1年前の2012年度当時の数量シェアは39.9%で、その後の使用促進策を追い風に17年度は約69%まで伸長した。人口の高齢化に伴って医療費の抑制策が政策課題となる。そんな時期にGE薬協は医療費適正化の急先鋒として頭角を現してきた。
ただ、これまで安定供給や品質確保に焦点が当たったジェネリック業界の局面も大きく揺さぶることになる。
澤井新会長のもとで今後課題となるのは、安定供給や品質の向上はもちろんのこと、適正な流通の在り方や健全なビジネスとしての成長と言える。
特に、薬価制度抜本改革の影響、そして製造原価の上昇は、ジェネリックビジネスに深刻な影響を及ぼすことが想定される。2018年4月実施の薬価制度改革は、後発品自体は価格帯の集約は上市12年経過したものは1価格帯を原則としたものの、初収載薬価は現状維持となった。新薬創出等加算の抜本的見直しなどを製薬業界が突き付けられる中で、さらなる成長が求められるジェネリックメーカーにとっては柔軟な着地点だったと言っても過言ではないだろう。
一方で、長期収載品にメスが入ったことは、ジェネリックビジネスそのものに大きな影響を与える。特に、長期収載品の薬価が後発品を基準に引き下げるG1・G2ルールが新たに組み入れられた。これまで医薬品市場は、新薬、長期収載品、後発品、基礎的医薬品とカテゴリーが分かれてきたが、薬価制度改革を経て、特許品とそれ以外の2つの枠に区切られたようにも見て取れる。長期収載品の価格が引き下がり、むしろ価格としてのメリットが長期収載品に分がある中で、後発品がいかに成長を続けていくのか。
昨年、日本ジェネリック製薬協会がまとめた、「ジェネリック医薬品産業ビジョン」では、環境変化のスピードが増し、「ますます不確実な時代に突入する」と指摘。臨床試験を伴う研究開発受託型企業や、製造受託型企業など新たな姿を打ち出し、ジェネリックを扱う全ての会社に対し、自社の強みや役割を明確化し、きたるべきジェネリック医薬品マーケットの成熟期に備えるよう促した。逆に言えば、製剤的な工夫やエビデンスの構築、情報提供など、各企業が強みを発揮しなければ、淘汰される時代ともいえる。マーケットが変化する中で、不採算品目が増加することも想定される。
このところ、武田薬品のシャイアー買収などのビッグディールの話題や、国内大手製薬企業で相次ぐ早期退職優遇制度の実施など、先発メーカーを中心に、営業、生産、開発など各部門のリソースを見直し、新時代型のビジネススキームに転換する動きが活発化している。
こうした集約化・大型化の波は、ジェネリックメーカーにとって決して無縁ではない。これまで以上に、品質、価格、そして情報を求められる中で、規模の経済はローコストオペレーションが必須のジェネリックメーカーこそ活かす可能性を秘めている。製造原価を低減し、品揃えしたプロダクトパッケージ型で地域医療にアクセスするタイミングがいま迫っているのではないか。
澤井新会長が記者会見でこう語った。「ジェネリック業界は、全くこの先を予見することができない状況に陥っている。」この発言の意味は重い。変革のスピードがこれまで以上に増す中で、ジェネリックメーカーの真価がいま、問われている。